花が美しく実用性もある「ツバキ」
美しいツバキの花。江戸時代の武士は栽培を競いました。
ようやく春めいてきた阿武隈山系ですが、早春を告げる植物の1つがツバキ。江戸時代から栽培されている花で、品種の多い常緑高木です。夏に白い花を咲かせるナツツバキも同じ仲間。色は紅が主流ですが、白、桃、紅白のボカシなどもあり、美しい花を咲かせます。18世紀にはヨーロッパに紹介され、日陰でも咲くことから園芸植物として流行。「椿姫」は小説やオペラで主人公の好きな花として登場しました。日本では西日本全域に分布しており、東日本では温暖な地域に自生しています。阿武隈山系でも庭に咲いているものが少なくありません。
鈴なりに花を開花させたところ。光沢のある葉も特徴です。
ただ、ツバキはよくサザンカと間違えられます。花や木の様子がよく似ているからです。いちばん簡単な見分け方は、花の落ち方。サザンカは花弁が1枚ずつ散るのに対し、ツバキはガクの部分から丸ごと地面に落ちます。武士がその様子を嫌ったという伝説もありますが、現代でもお見舞いに持参したり、競馬馬の名前に付けるのはタブー。実際、タカツバキという馬が落馬で競争中止というアクシデントもあったそうです。また、サザンカはほとんど匂わないのに対し、ツバキは匂うものがあります。花の咲く時期もサザンカの秋から冬に対し、ツバキは冬から春。まさに木偏に春の花なのです。
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樹皮は灰褐色で滑らか。材木は工芸品にもなります。 |
ツバキの種子は、搾るとツバキ油になります。いわば和製のオリーブオイルで、食用油、整髪料などに使われます。ただし、かなり高価なものです。ツバキは生長すると高さ20mもの大木になりますが、現存するものは多くありません。材木は工芸品や印鑑の材料として使われます。また、木灰は日本酒の醸造にも使われていました。見た目が美しいだけでなく、いろんな用途に使えるツバキ。日本人の生活に寄り添いながら育ち続けてきた樹木なのです。
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こちらはサザンカ。雄しべが筒状にならず、冬に咲きます。 |
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