田舎に春を告げる「ヤマザクラ」
葉と花がほぼ同時に咲くヤマザクラ。野山を桃色に染めます。
東京ではすでに花見が終っているようですが、そのサクラはソメイヨシノを指します。江戸末期にオオシマザクラとエドヒガンを交配させて作った園芸品種で、意外に歴史は古くありません。大昔から日本にあるサクラはヤマザクラ。ソメイヨシノより少し早く咲きます。葉より花が先に咲くソメイヨシノと違って、葉と花がほぼ同時に咲くのが特徴です。花の色もヤマザクラの方が赤みが強めです。葉っぱの緑と花の赤のコントラストが美しく、里山に春を告げます。
茶筒などにも使われる樹皮。木目がきれいです。
この樹木は昔から人間の生活に深く関わってきました。美しい種皮は樺皮細工として珍重され、茶筒などにも使われます。木は堅いのですが、加工が容易で、建築材や家具などの材料になります。光沢があって木目が美しいことから、和室の天井の細工にも使われてきました。食用としてサクラ餅が有名。白玉粉や小麦粉の薄皮でアンを包み、塩漬けしたサクラの葉で包んだものです。お茶に葉を入れても香りを楽しめます。ただし、香りは塩蔵するときに生成したクマリンという物質によるもので、肝毒性もあるのだとか。食べすぎには注意が必要です。
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最近は餅だけでなく、サクラ団子も見かけるようになりました。 |
ヤマザクラにもいろいろ種類があるのですが、東北以西ならどこでも見ることができる落葉高木です。高さは20m前後。樹皮は暗褐色で光沢があり、横に裂けています。葉は細長い楕円形で、長さは5〜10cmくらい。その近くに1〜3個の花を咲かせます。花の直径は3cm前後で、花弁は5つ、そこに約40本の雄しべと1本の雌しべがあります。果樹も成りますが、サクランボとして食用されることはありません。ソメイヨシノの花見はあっという間に終わってしまいますが、ヤマザクラは開花時期が比較的長いという特徴もあります。阿武隈山系を訪ねたらシダレザクラの銘木巡りだけでなく、ぜひヤマザクラの美しい姿も眺めてください。
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樹皮は横に裂けるので、他の樹木とは見分けがすぐつきます。 |
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