精緻な彫刻が見られる文殊堂。合格祈願の絵馬もいっぱい下がっています
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「3人寄れば文殊の知恵」という諺があります。意味は説明するまでもありませんが、ここで言う知恵とは単なる知識だけでなく、生活を豊かにするための知能も指しているようです。そして、肝心の文殊ですが、数ある仏のなかで智をつかさどる文殊菩薩から来ています。単独で祀られたり、釈迦の脇侍として普賢菩薩とともに釈迦三尊を構成することもあります。その文殊菩薩を祀っているのが、日本5大文殊の1つに数えられる船引町の「安倍文殊堂」。平安中期に東北を支配していた安倍定任(あべのさだとう)が文殊菩薩を安置したのが起源で、江戸時代には安倍家の末裔である三春城主・秋田公の庇護のもとに信仰を集めました。 |
文殊堂は船引駅から郡山寄りに車で5、6分くらい進んだ線路近くの里山にあり、普段は人影もなくひっそりとしています。それほど山の中ではないだけに、駐車場から参道を眺めた途端、意外な風景に驚いてしまいました。何と樹齢400年もの杉並木が数百メートルにわたって延々と続いているのです。日光杉並木と比べて距離では遠くおよびませんが、1本1本の巨木の威容は決して見劣りしません。数百年の風雪に耐えた杉の根が山肌に露出しており、生命の力強さを伝えています。こんな素晴らしい杉並木が船引の中心部近くにあるとは、阿武隈山系の住民でも知らない人が多いのではないでしょうか。 |
見事な杉並木にしばし現代の喧噪を忘れます
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長い参道を登り切ると、精緻な彫刻を施した建造物が姿を現します。ここには天保3年(1832年)に奉納した珍しい木彫のこまいぬ絵馬、有名な和算家が明治10年(1877年)に奉納した算額があり、いずれも町の有名文化財に指定されています。また、知恵の菩薩だけに学問の願い事も多く、合格祈願や縁結びの絵馬がたくさん下げられています。 |
東側を見渡すと阿武隈の名峰の連なりが。いい風景です |
参道を下って改めて周囲を見渡すと、北から移岳、鎌倉岳、大滝根山など阿武隈山系の名峰が一望できることに気が付きました。詳しいことはわかりませんが、この風景もおそらく信仰と何らかの関係があったのではないでしょうか。なお、4月29日には県十大祭でもある例大祭が行われ、山伏のほら貝が響き渡るなか子どもたちが平安調の衣装に身を包んで参道を練り歩く「稚児行列」も見られます。ぜひ現地を訪ねてみたいものです。
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