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都路林産開発
〒963−4701
福島県田村市都路町古道字芹が沢63−7
TEL0247−75−3333 
FAX0247−75−2808



 

 

第9回】木場純一さん・典子さんご夫妻の「足踏み脱穀機」と「唐箕」

---雑穀を食卓につなげる素朴で実用的な道具---

 


昔の道具ながら威力を発揮する足踏み脱穀機。これはキビの脱穀風景


 第8回の柴田さんとともに、私が一目で“ただ者でない”と思ったのが木場純一さんだ(まったく飲めない下戸というところも両者の共通点)。敷地は約3反とさほど広くないが、その中身がすごい。家まわりでカモミール、ミント、バジルなどのハーブ、ブルーベリー、ラズベリーなどの果樹を栽培。ちょっと離れて、葉っぱの大きな秋田フキなんかもある。畑ではダイコン、ニンジン、ハクサイ、ニンニクなど約50種類の野菜を無農薬有機栽培しており、人の足ほど太いズッキーニも何度かいただいた。

実り豊かな木場家の畑。網や発泡スチロールなどイノシシ除けの工夫も

そして、木場菜園をいちばん特徴づけているのが雑穀である。約100坪の畑でソバを約12kg、約1反の畑で油用のジュウネン(=荏胡麻)を約30kg、約50坪の畑でキビを20kgも収穫している。そのほかに味噌用の大豆を地元農家が所有する2反の畑で共同栽培。木場さんは農業者ではなく、せっかく実ったソバ、キビ、ジュウネン、大豆なども友人・知人にあげる分が少なくないのだが、完全に家庭菜園のレベルを超えている。05年5月に実施した「田舎暮らし準備校」では、畑の先生も務めていただいた。
 収穫した雑穀を食べるには、脱穀、選別、製粉(これは量が多いので業者に頼んでいる)というプロセスが必要になる。そこで最初に登場するのが足踏み脱穀機。丸めた針金をドラムに何百本も固定させたハリネズミのような道具で、ドラムを踏み回し、そこに乾燥させた雑穀を接触させて実を取る簡単な仕掛けだ。しかし、踏み方を間違えるとドラムが逆回転して豆が顔に飛んできたり、たまに左右の足を交替しないと筋肉痛に見舞われる。また、足踏みで脱穀しても籾殻やさやは除去できないので、選別は唐箕(とうみ)の出番となる。これは手で回して風を起こし、実より軽い物質を吹き飛ばしてしまうもの。市販品は2万円くらいだが、木場家は農家が放置していた道具を譲り受けた。ネズミの歯形や傷みがあったため、木や段ボールで補強しているところが微笑ましい。

「大豆は皮が固いから、足踏みも重い。それに比べてソバやキビは軽いですね。これは移住者仲間の人が見つけてくれたんですが、その前は棒で叩いたり、手で揉んだりしたからすぐ疲れます。足踏みがあると本当に楽ですね。メンテナンスも足が重たいときに油を差し、雨の当たらないところに保管しておくだけ。唐箕は実も一緒に飛ばないよう、ゆっくり回すのがコツです。下から上へ時計回りにやるんだけど、最初は反対に回したから何も飛んでこなかった(笑)。この道具は板を丸くきれいに削ってあるでしょ。職人の技を感じますね。脱穀に千歯こきも使ったことがあるんだけど、これもすごい知恵。偉いもんだよ、昔の人は」と純一さん。


籾殻やゴミを飛ばす唐箕。下のザルに豆やキビが落ちてくる
 

 普段は夫婦だけでひっそりしている木場家だが、秋の収穫期になると大勢の援農部隊が泊まりがけでくる。この日、ジュウネンを棒で叩いていたのは千葉、浜松、遠くは神戸から新幹線と常磐線を乗り継いでやってきた女性たち。猫の手も借りたい時期に大いに戦力となっている様子で、ミニグリーンツーリズムとでも呼ぶべき光景だ。手を動かすだけでなく、「毎年やっているから少しずつ楽な方法を身につけたのよ。この猫は知恵もあるし、よく食べる猫なの」と口も達者。それもそのはず、純一さんとは早稲田大学の登山クラブWMSに在籍していた仲間で、アフリカの最高峰・キリマンジャロや(5895m)や朝鮮半島の最高峰・白頭山(2750m)などを踏破しているのだとか。ご学友もただ者ではなかった。
 


秋になるとやってくる援農部隊も、実はただ者でない
 


木場家で収穫した雑穀。左がキビ、右がソバ

 木場家が現在の住まいを購入したのは8年前。それまで千葉県で1坪農園をやったり、国土庁が主催した栃木県の田舎暮らし体験ツアーにも参加しているが、本格的に畑をやった経験はない。しかし、本棚には福岡正信氏の「自然農法・わら一本の革命」(春秋社)、農的暮らしの永久デザインを描いた「パーマカルチャー」(農文協)、農民作家・山下惣一氏の多くの著書などが並んでおり、農の世界を真面目に追い求めてきた形跡がうかがえる。クライマーとしてはアルプスを望む信州の山里に親近感を持っていたが、広い畑が手に入りにくい。阿武隈山系で無農薬栽培に取り組む女性の記事をたまたま目にしたことから、移住者が使っていた家を取得する。前の住人は畑を50坪くらいしかやっておらず、純一さんは1年目から土作りに取り組んだ。

「冬も作業していました。自分の土地だと思ったら、一生懸命やれるんです(笑)。もともと桑畑だったから土は砂色で、石や笹藪も多かった。それをていねいに取り除き、隣の農家に耕うん機をかけてもらったんです。あとで管理機(=歩行式の小型耕うん機)を買いましたけどね。土作りには落ち葉、米糠、油粕、鶏糞、EM菌を使った堆肥のほか、クズ豆に米糠、糖蜜、EMの原液を混ぜて発酵させたものを入れた。これでかなり改善しましたね。でも、ジャガイモはイノシシに食われるし、キジやノバトは雑穀をめざして飛んでくるし、朝は黒い虫を捕る作業もあるから、けっこうたいへんなんですよ。自慢できるのはトマトかな。テントハウスの中で育てているんだけど、みんな美味しいと言ってくれます」


土作りの武器になったクズ豆。EM菌などで発酵させている


 純一さんとご学友をこれだけ持ち上げておきながら、私がいちばんただ者でないと思っているのは妻の典子さんである。第3回で「奥様移住者<料理の鉄人>四天王」の1人(多国籍料理部門)に挙げさせてもらったが、そのレパートリーが実に幅広い。農家に教わった紫蘇の実の一升漬けやフキ味噌、干し柿があるかと思えば、バジルペースト、ピザ、韓国キムチ、手作り餃子、ラタトウイユ(夏野菜のハーブ煮込み)、クルミジャコといった料理がテーブルにのぼる。デザートだってイチジクのワイン煮、全粒粉のクッキー、手作りケーキ、などなど。そのすべてが味わい深い! 女子栄養短大を卒業し、食の安全を考えて生協活動を長年やっていたそうだが、それ以外に特別のキャリアはない。どうしてこんなに独創性の高い料理が作れるのか、ご馳走になりながらいつも驚かされる。
「ただ料理が好きなだけよ。でも、やるからにはちゃんとやりたい。甘さ控えめが良いというけれど、私はしっかり味付けしてからあんばいを考えるの。毎日食べるものは薄味にしますが、味の追求には塩分も大切だと思っています。なるべく畑で穫れたものを食べたいから、冬瓜の変わりにズッキーニを使ったり、いろいろ工夫してみるんですよ」

典子さんの料理の一例。左からイチジクのワイン煮、ラタトウイユ、胡桃マドレーヌ

 メモ魔の彼女は夜中になると、テレビなどで仕入れたレシピをチラシの裏に書き込んでいるらしい。それを自分で料理し、アレンジしながらオリジナルなメニューも考えている。年金生活に入ったとはいえ、この才能を埋もれさせておくのはもったいない。私が料理本をプロデュースしようかなあ、と書いた途端に情報を伝えておいた「田舎暮らしの本」編集部から電話が。え、ホント・・・・というわけで、同誌の3月号(2月3日発売)から「素材を活かす 木場典子さんの田舎のレシピ」という連載が始まることになりました(構成は山本)。乞うご期待!
 


ご主人と援農部隊を接待する典子さん(中央)。この日のメニューはほうとう風ソバ団子汁と古代米のおにぎりだった
 

 



 

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