問い合わせ・資料請求・田舎暮らし物件見学希望はこちら

田舎暮らし物件リストのご請求はこちら

現在販売中の
田舎暮らし物件

田舎物件 ・田舎不動産の特徴

都路にないもの
都路にあるもの
村おこしの歴史
都路はどこにある
都路林産開発の紹介
現場レポート
田舎暮らし一般コラム
阿武隈のとびら
移住者レポート
『田舎暮らしの道具』拝見
たむら周辺の
見どころ・食べどころ
都路フォトアルバム
福島東部のお国言葉
みちのくの樹木たち
むらに響く音
 田舎のレシピ
シンプル! 
アウトドア・クッキング
わたしの手作り
わが家のペット自慢
林産トピックス
リンク集
トップページ
プライバシーポリシー
リンクポリシー
メールはこちらへ
クリックすると「現在販売中の物件」ページにジャンプします

都路林産開発
〒963−4701
福島県田村市都路町古道字芹が沢63−7
TEL0247−75−3333 
FAX0247−75−2808



 

 

【第6回】前川達夫さん・春江さんご夫妻さんの「池」

---最高のもてなし料理をいつでも提供する装置---

 


前川家の池。いつでも新鮮なイワナが食べられる
 

 いい人だなあ、と思う人は田舎にたくさんいる。でも、前川達夫さんはとびきりいい人だ。ちょっと顔を出そうものなら、「まあまあまあ、お茶だけでも」と部屋に招かれ、2杯も飲むと「まあまあまあ、ビールだけでも」と注がれ、気が付いたら目の前に「久保田」の千寿か紅寿。これだけでも恐縮してしまうのに、春江さんの手料理が加わる。第3回の朝日さんのときに公表したが、春江さんは私が勝手に「奥様移住者<料理の鉄人>四天王」の1人として家庭風懐石部門で選ばせていただいたほど、その料理の繊細さ、間の良さは素人離れしている。
今回の取材は都路林産開発の吉田社長とご両親・吉田吉太郎さん、才さんご夫妻も同行したのだが、84歳の吉太郎さんが帰る間際に「こんなにご馳走になって。いくら払えばいいんだい」と漏らしたほどだ。前川家には事前に電話しないで伺うことも多いのだが、いつでもイワナの刺身がテーブルに出てくる。それを可能にしているのが、庭にある約6×4mの大きな池。沢沿いの敷地と思われるかもしれないが、実はそうではない。農村部の高台地で、水は深さ42mまでボーリングしたもの。それを飲料水と池に併用しているのだ。購入した5年前は沢沿いの売地がなかったからだが、吉田社長の勧めでこの方法を採用した。池は黒い寒冷紗で覆われ、内部は人間が渡る石の橋が架けられている。
ビール瓶と比べれば、大きさは一目瞭然。最大で52cmくらいになるとか

これが循環のポンプ。井戸の水量が多いときは上水を取水する別の装置を使う
「埼玉にいたときしょっちゅう釣りに出かけていたから、田舎で魚を飼いたくなったんです。寒冷紗をかけるのは、水温の上昇と藻の発生を防ぐため。夏だけなんですけど、藻が発生すると水質が悪くなるんですね。池の掃除も2〜3週間に一度やります。今は80匹、多いときは150匹くらいのイワナが入っているんですが、糞や餌の残りで水が汚れてくるんですよ。イワナは5年くらい生きるけど、ヤマメは2〜3年で死んでしまう。混ぜると病気しやすいので、イワナだけにしています。小さいイワナも大きなイワナも最初は同じ大きさなのに、次第にばらつきが出てくる。面白いものですね」
 井戸は沢と違って水量が少ないので、水を最大限に有効利用しなければならない。地下水の量が減ってきた最近はなおさらだ。循環ポンプを取り付け、浄化槽と同じ仕組みのばっき槽へ送り込んで好気性処理する。さらに下からグラスウール・炭・網・小石などを重ねた濾過槽に送り、池に戻している。それでも水質が劣化するので掃除するわけだが、完全に水を抜くとイワナが死んでしまう。そこで前川さんは、長さ65cmから8cmまで6段階のパイプを用意し、オーバーフローでそこから徐々に水が抜ける仕掛けを考えた。魚にしてみれば少しずつ天井が低くなるので、天変地異を察して大暴れすることもない。素朴だが、実に素晴らしいアイデアだ。
水を徐々に抜くパイプ。前川さん独自のアイデアだ


池の掃除。冬でも1カ月に1回はやっている
 

 この日も遠慮なくイワナの刺身をご馳走になった。池から魚をすくうときは、2本の網で追い込んでいく。もう慣れたものだが、網に入っていたのはビール瓶よりはるかに大きい50cmクラスのイワナだった! これを刺身にすると、1匹でも大皿で山盛りになる。厚めに切った身を3切れくらい一気に箸で持ち上げ、醤油に2秒ほどつけて浸みてきたところをスイッと口に運ぶ。コリッとした歯ごたえで、甘みがじわっと広がってくる。もちろん、魚の臭みはまったくない。いやー、こんなぜいたくな一品、東京の料亭だって絶対に出てこない。小ぶりのイワナは塩焼きにするという。都路の吉田水産で買うとイワナの稚魚が10kgで約2万円、餌代が約20kgで約3300円というから、手間だけでなく本当はお金もかかっているのだけれど。

春江さんは庭先で、今度はヤマメを焼き始めた。成魚を買ったものだが、「炭は自家製なんですよ。薪ストーブで灰になる前に取り出すんです。今年は組長の役がうちに回ってきたので、先日もスポーツ大会の反省会をここでやったんですけど、そのとき60匹焼きました」という。ほかにも黒豆、竹の子の煮物などいろいろご馳走になったが、とくに大葉で巻いた紫蘇おにぎりは絶品だった。


これがイワナの刺身。ダイコンも自家製で、最高のもてなし料理だ


ブロック+砂+針金+炭を使った簡易炉でヤマメを焼く春江さん(左)。1つの炉で20匹焼けるという

 久々の訪問だったので、畑や庭もじっくり見せてもらったのだが、実にレベルが高い。果樹はモモ、スモモ、ナシ、ブドウ、イチジク、カキなど数え切れず、2kg以上の世界一大きな「愛宕ナシ」、東北でも甘く成る「大養」というカキの品種もある。また、ブドウでワイン風の飲み物も造っている。敷地は750坪とさほど広くないのだが、土手にはツツジとユリが筋状に植えられ、5月から7月に赤、ピンク、白、黄、橙と5色の花を咲かせるのだとか。
大葉で巻いた紫蘇おにぎり。春江さんらしい味覚の繊細な一品だ
周囲の農家から畑もあちこち借りており、福島県産「きぬあずま」の麦畑だけで1反弱。これを6月に刈り取り、7月25日頃に高級品種「常陸秋蕎麦」を植えて秋に収穫する。もちろん、ウドンと蕎麦は自家製。やっていないのは米だけですね、と話したら「農家の手伝いをしているから、米は年に200kg以上いただくんです。品種はミルキークイーンで、味がいいですよ」というからさすがである。


借りている畑。「きぬあずま」の小麦粉はウドンや団子汁、お焼きに向く

  2年前、「朝日新聞」からユニークな移住者1名を紹介してといわれたとき、真っ先に頭に浮かんだのが前川さんだった。大阪本社から取材に来た夕刊編集長もすっかり彼の人柄に惚れ込み、酒が弾んだものである。そのとき笑顔を見せていた春江さんの母、スミさんの姿が見えない。1月に86歳で急逝されたのだ。最後の言葉は「満足、満足」だったという。見た目に可愛いおばあちゃんだったが、そんな辞世の言で立ち去ることができる人生の何と高貴なことか。
 


「干し柿は250kg作るんです」と手振り身振りで説明する達夫さん。左は才さん
 

 前川さんは元銀行マンだが、その経歴が信じられないほど飄々としている。現役時代は部下に人気があったでしょ、と話を向けたら「いや、別に。ただ毎晩、一緒に酒を飲んでいただけだから。いまだって1日4回飲むけど、近所で農作業が始まると自宅から見えるから、すぐ手伝いに行くの。そこで10時と3時にビールが出るから、1日6回飲んでいることになりますね」とこともなげにおっしゃる。これだけ酒を飲みながら、借地も含めて約1000坪の土地を完璧に利用しているのだ。まさに神業である。こういう能力も知識もないくせに、何町歩もの土地を買って荒れ放題にしている移住者たちに見せてやりたいくらいだ。吉田社長の母で仏教に造詣が深い才さんが「前川さんみたいな徳の高い人は、そういるものでない。たぶん僧侶だと思うけど、先祖にきっと素晴らしい人がいたに違いない」と因縁を説くのだが、少なくとも私の身近で前川さん以上の大物はいない。いや、これからも絶対に現れないでしょう!

 

山本一典の「田舎暮らしの道具」拝見indexページはこちら
当サイトトップページはこちら